この焼酎は、南薩摩の地で生まれ、育まれた焼酎です。
蔵元のある場所は、枕崎のほんの手前にある鹿児島県頴娃町(エイチョウ)
この蔵の周りは、全て茶畑です。

今年の早春のころ、僕はその地に居ました。

永遠と続くように見える統一された緑の茶畑が続いています。
遮るものなど何もない・・。
抜けるような蒼い空が白い雲を抱きながら少し霞んでいます。

知覧から国道を枕崎へと南下、頴娃町にさしかかると、直ぐに目に入る
大きな工場・・・なんと「白波」の薩摩酒造の工場でした。

蒼い空に突き出たいく本もの煙突が印象的、
しかも何処か石油コンビナートにも似た工場。

春の弱い日差しを享受した茶畑の中に聳え立つ工場蔵に違和感を覚えつつ、
そのまま国道を南下・・。

(何かの看板が出でいるはずだ・・)

そんな思いと緊張した面持ちで「佐多宗二商店」の看板を探し続ける。

あの茶畑の中の工場をやり過ごして、既に10分、探すことに焦りを
感じながら、国道脇の看板に目を送る・・。

「あっ、あった・・」

bil2僕らの蔵元探訪の旅は、路傍の隅に小さく掲げられていた「晴耕雨讀」の
看板で報われた。

国道を右折すると直ぐに蔵元へと続く小さな坂を発見。
隣には、立派な洋風な家があり、ガーデニングが行き届き、ヨーロッパ
を髣髴していた。

(ひょっとして、社長宅・・・?)

そんな思いも瞬間、蔵元の駐車場に車は滑り込む・・・。

prg社長はじめ、営業の矢部くん、経理および総務担当の右田さんが
出迎えてくれた。

「やあ、初めてお邪魔します。そしてお世話になります」
と挨拶をする・・。

平屋の社屋の社長の部屋に通され、部屋を眺めてみると古ぼけた部屋の
片隅に神社の名前の入った一服の掛け軸と共に数本の榊が白い陶器の
一輪挿しに入れてあり、酒づくりの神への安寧を願かけてあった。

程なく、蔵元を案内してもらい、芋焼酎へのこだわりを教えてもらう。

そんな蔵の中に一年に一回だけ出荷される芋焼酎があると云う・・。

僕の好奇心はいやがおうにも高ぶってくる・・・。

焼酎製造蔵から、少し離れた倉庫風の小さな建物へと案内され中へ・・。

kame2驚きは、それから始まった。
大きな甕が幾つも地中に埋めてあり、ビニールで覆いがかけられ
その上から、同じ甕蓋が重石のように置いてあったからだ。

そして、案内の矢部くんが静かにその蓋を持ち上げ中を見せてくれた。

「これが、この蔵で一回しか出荷しない焼酎、晴耕雨讀 甕仕込みなのです」

 

kame大きな甕の中には豊穣なる芋から出来た酒が満々と満ちていた。
そして、清冽な光沢を甕の中で宿しているのが分かった。

その神からの贈り物を、ほんの僅かだけ口に含む・・・。

なんと、まろやかな濃くのある味だろう・・。
そして、次第に天然の甘みが口の中を包み込んでいく・・。
最後に、ふっーと風のように清貧な芋の香りが鼻腔をかすめた。

その瞬間、言葉が出ない・・。
茶碗の中に僅かに残った神の雫を、じっとを覗くのみである。

蔵元を辞すと南薩摩の茶畑が一時前と同じように続いている。
何事も無かったように蒼い空と茶畑が静かに僕らを包んでいた。

あの南薩摩の春の思い出は、今年の十月に手元に届いた。
一年間、甕の中で眠り続けた「晴耕雨讀 甕仕込み」の目覚めであった。

note製造本数は、あの小さな蔵の幾つかの甕だけ・・。
全国に特約店契約の酒屋が100軒、一軒あたり多くて10本ばかり・・・。
そんな全国の酒屋が一年待ち続けていた焼酎が「25度 晴耕雨讀 甕仕込み」
なのです。

この焼酎なんと、社長以下、全ての社員が総出で9月に収穫された
自家畑の「コガネセンガン」というサツマイモのヘタ落としから始められ、
米麹製造から発酵、そしてモロミの蒸留まで、すべて手作り・・。

binしかも、甕に仕込んだ後に浮いてくるサツマイモに含まれている「油分」を
毎日丁寧に、柄杓で除去して時の経つのを待つのです。

全て手作りなのです。
機械を使うことがあっても限られた箇所のみ・・。

どうです、こんな焼酎飲んでみたいと思いませんか・・。

あの南薩摩の春の日の思い出と共に・・・。竹屋亭主人