古くからある焼酎酒屋を訪ねてまわると、隠れた銘酒があったりするものです。
さて、今回は・・・
2月の風の強い日曜日に球磨郡人吉市合の原町の深野酒造本店様を訪ねました。創業は江戸文政年間という古い蔵元です。
蔵元の入り口には、貯蔵用の甕がオブジェとして置かれており、球磨焼酎の蔵元の雰囲気が漂ってきます。
蔵の中に入りますと、仕込みようのモロミの発酵している香りが蔵全体に漂っていました。何か甘すっぱい香りです。1次仕込み中の地中に埋め込まれている甕を覗き込みますと、白濁した初期のモロミ発酵を目にすることができました。
乳酸が適当にきいている状態で、甕のふちからはヨーグルトのような香りが沸き立ってきます。
これは、清酒づくりにも共通していることですが、乳酸発酵は自然界に存在する雑菌や自然酵母などを排除することです。この手法は、ワインづくりにもみられます。
甕の大きさは400㍑入りの甕で半分以上は地中の中に埋めてあります。時々、蔵人が櫂を入れて攪拌します。これは甕の中で均等に発酵を促進するためです。この作業をしないと発酵にむらが起こるそうです。
甕の中を覗きこみますと、1次仕込みの推移を確認することができす。1週間、1次仕込みはかかるそうです。甕の中の温度は26度。白く白濁した固まりが甕の表面を覆い、小さな泡がグツグツと固まりを押しのけるように沸き立っていました。この状態は、昔懐かしい甘酒づくりと良く似ています。
この写真は、2次仕込み中のモロミの状態です。ただ、深野さんに見せてもらった2次モロミは米を原料にしたものではなく麦焼酎のものでした。薄茶色の麦のモロミの浮いたタンクからは、やはり甘すっぱい香りが漂ってきます。モロミ全体からグツグツと泡が煮立ったように沸いていました。ただ1次仕込みのような若さを感じる発酵ではなく、どちらかと云うと大人の感じがしました。
深野さんが柄杓でその発酵途中のモロミをすくってくれ私は味わうことが出来ました。恐る恐る口に運びますと、酸と糖のバランスが複雑です。この状態で2週間発酵を続けるそうです。発酵の終わった別のタンクも見せてもらいましたが、静かに眠っているかのようでした。
2次仕込みが終わったモロミは、この蒸留釜で蒸留されます。昔は釜で炊いていたそうですが現在はより蒸留効率を上げるため、この釜を使っているそうです。ただ、蒸留と云っても直接直火で炊くわけではありません。お湯で間接的に2次モロミを煮るということです。またこの蒸留で減圧蒸留と常圧蒸留の差がでます。減圧蒸留機を使うとすっきりした癖のない酒質となります。蒸留に使うモロミを、2トンのモロミを蒸留したとすれば1トンの粕が出るそうです。昔はお湯を沸かすのに焚物でやっていたそうですが、現在はボイラーでお湯を沸かしています。昔の名残として深野酒造さんにはレンガづくりの煙突が蔵元のシンボルとなっています。
後は貯蔵熟成です。
500㍑の甕の中で3ヶ月から4ヶ月の熟成期間を経ます。貯蔵甕には、少し分厚いビニールで覆いゴムで密閉してあります。そして昔ながらの木製の厚い木蓋で重しをしてあります。
この熟成貯蔵期間を経たものをより深く熟成するために樫樽で寝かせます。これが熟成につながり益々まろやかな味となります。
ただ減圧蒸留された焼酎は熟成に相当な時間がかかり常圧蒸留された焼酎の倍の時間がかかるそうです。
また個性的焼酎をつくる場合には常圧蒸留が向いているそうです。また、この常圧貯蔵原酒と減圧蒸留した焼酎をブレンドすることにより、独特の香りを押さえたすっきりした味わいの焼酎をつくる事ができるそうです。
これらの工程を経て製品としての焼酎が出来あがります。深野酒造本店さまには最後の楽しいテイスティングがついていました。今月焼酎名人街でご紹介しました「文政の時次伝説」は、ことのほか美味しかったのです。他にもユニークな焼酎もありました。
この焼酎は、常圧でつくられており毎年限られた本数しかつくられていません。この焼酎も深野酒造本店さまの若社長の誠一さんが考案され「球磨33」シリーズということで地元の皆様に喜ばれているそうです。何せ焼酎ラベルが、車のナンバープレート使用になっています。「33」とは焼酎の度数だそうです。それに「19-87」とありますのが製造年月日だそうです。つまり1987年につくられた焼酎ということだそうです。実にユニークな焼酎でした。
深野酒造本店の探訪を終え、蔵元を後にしたのですが、深野誠一さんが蔵の先まで送っていただきました。送って頂く途中、蔵元の裏手に流れる名も無き小川の清流が何か懐かしさを感じさせ、そして人吉の寂しさを感じてしまいました。深野酒造本店さまありがとうございました。