蔵元探訪
のろまの亀
2013年7月26日蔵元探訪
八代方面から球磨川沿いを走っていると、 杉や桧のよく手入れされた山の急斜面が両側から迫っている。 隘路のような細い国道を川の流れに沿うように走っていると 球磨川を遡る鮎のような気持ちになってなとなく心が安らぐ・・。 「球磨川下り」という舟遊びがある。 国道沿いの眺めから思うに幾へもの瀬を通過する船は、 スリルと共に自然の作り出した急流を緑の塊とともに 満喫しているように思えた。 事実、球磨川の流れは波立つ激流もあれば、穏やかな流れの中で 萌えるような山並みの木立の緑を映して実に美しい。 その風景を更に彩るかのように国道の対岸には、 まるで季節を敷き詰めたような菜の花の群れが一面を染めている。 もうすぐ人吉という手前に球磨村がある。 その一角に「一勝地」という村がある。
松の泉への旅
2013年7月26日蔵元探訪
朝起きると、梅雨の空は重たい黒い雲を たっぷりと含んでどんよりとしていた。しかし雨は落ちていない。 ふっと思いつき、車で球磨郡免田町に向かった。 人吉、球磨地方には焼酎蔵が29蔵もある。 俗に言う焼酎文化圏は、この熊本の球磨地方から始まると言って過言ではない。 29蔵を全て飲んだか・・? と問われれば、返事に詰まってしまうが、 少なくとも酒売りを生業にしている以上、 「知ること」、「飲むこと」そして「行ってみること」は欠かせぬ行程である。 熊本市内には、蔵元の傑作品である球磨焼酎が無造作に転がっている場合が多い。 最近の傾向から、「売れる焼酎」を売ることは簡単であるが、問題は価格だけではない・・。 やはり気を配りたいものは、焼酎の背景にあるドラマであるし、蔵元の意思であるし、 蔵元の長年の歴史が醸し出す味の文化ではなかろうか・・・。 そのような全ての要因を含んでいるのが蔵元の「味」であるし「旨み」だと思う。 酒は致酔飲料という特異な商材である。 であるからこそ味を楽しむことは、酔うために飲むのではなく、 味を楽しんでこそ、蔵元の云わんとした「文化の味」がわかるようなきがする。 車は熊本市内から高速を使い、あっと言う間に球磨の山並みの中に吸収されていく・・。 雨も静かに降ってはいたが、気になるほどではない。 これから出会う蔵元への期待と現場を見ることで 普段味わっている焼酎の味に深みを感じたいと思っていた。 人吉インターからは国道219号線を走り、小一時間で「松の泉」の前についた・・。 熊本ではこの松の泉は、有名な焼酎である。 昨今、小さな蔵がもてはやされ、希少な焼酎が珍重されているが、 松の泉は中堅クラスの蔵元である。 時間もちょうど昼時である。 まずは腹こしらえである。 松の泉の蔵の入り口には、今風な味のあるレストランがある。 独り座ってメニューを眺めると「だご汁定食」が目に飛び込んできた。 そう、誰かが言っていた話を思い出した。 「松の泉のだご汁は、旨かもんねぇー」 そう、躊躇なく「だご汁」を注文した。 しばらくして出された定食は、すばらしく大きめな丼にたっぷりと「だご汁」が入っている。 野菜がたっぷりの間に小麦粉を水で捏ねた、きし麺をもっと大きくしたような「だご」が入っていた。 箸を口に運ぶと野菜の甘みに絡まった「だご」が旨い。 あっと言う間に食べてしまった。 さて、蔵元を見る。 蔵元の貯蔵庫を見せてもらうと、甕が地中に幾つとなく埋めてある。 今年、醸した若々しい焼酎原酒が入っていると言う・・・。 この熟成の具合でオーク樽で熟成させるか、 それとも違う焼酎になるか決めるそうである。 そう毎年が勝負なのだ。 また他の蔵と違うものを探すとすれば、「電子技法」による酒造りがなされている。 つまり電子水をつくり、それで焼酎を作っているのである。 電子水とは、専用機械を用いて水の粒子をもっと細かくしたもので、 さらに備長炭で囲われた地下のタンクに水を貯蔵することで水を熟成することができる。 そんな水を焼酎作りに使うのである。 誰が聞いても贅沢な焼酎だと思うし、出来上がりの焼酎の味を想像すると 「丸みのある、喉に染み入る」ものをイメージしてしまう。 蔵の中には、そんな行程表が掲示されているし、 その奥には大きなホワイトオークの樽が薄暗い蔵の中にびっしりと静かに眠っていた。 元のレストランに戻ると蔵自慢の焼酎のティスティングが出来た。 「水鏡無私」を試す。 減圧で出来ていると思う。 そして、想像していたように優しい舌さわりである。 …